【オリジナル小説】「悲しいニュースばかりで落ち込む人へ」〜ポジティブニュースサイトで前向きになった話〜

目次

前書き

現代社会に疲れた方へ。

悲しいニュースが多い現代で、少しでも前向きになりたいという思いで書きました。

本文

現代人は情報のシャワーを浴びている、と言われているが本当にその通りだ。

しかもそれは冷たすぎるシャワー。

温かいシャワーなどではない。

凍えそうな真冬に冷たすぎるシャワーを浴びている感覚。

そうしたら誰だって風邪をひいてしまうだろう。

ただでさえ自分のこと、自分の悲しみで精一杯だというのに、

ニュースを見れば、SNSを開けば、そこには誰かの悲しみが溢れている。

「悲しいニュースが多いなあ・・・」

つい独り言を言ってしまう。

地方都市の公立の小学校。

お昼休憩にSNSを見ているサオリは憂鬱な表情だった。

28歳、独身、小学校の先生。

これだけ見ればなかなか良さそう。

だが実際は、保護者からのクレーム対応に追われ、

授業の準備で睡眠不足。

疲れ切っているが子供たちの前では笑顔、笑顔。

笑顔を貼り付けて過ごしている。

周りの友達が結婚していく中、出会いもなく

一人取り残されていく感覚に嫌気がさしていた。

そんな毎日。

気晴らしにネットニュースを開いていたのだ。

少しでも、前向きなニュースが見たかった。

だがそこは、誰かの悲しみで溢れていた。

「〇〇市での衝撃的な事件、真相は…」

「〇〇市での重大事件にネットが騒然」

サオリは深いため息をつく。

「サオリ先生ー!宿題届けにきましたー!」

担当しているクラス、3年1組のナオちゃんの元気な声が職員室に響く。

いけない、子供たちの前では笑顔でいなきゃ。

笑顔を無理やり作って振り返った。

「ナオちゃん、ありがとう!今日の日直はナオちゃんだったんだね」

『はい!ナオ、昼休みに遊びに行きたかったけど、きちんと日直のおしごとしました!』

ナオちゃんは笑顔で言った。

サオリのような、作り物じゃない、本物の笑顔。

素直なナオちゃんと話して、心が洗われる気分だった。

子供達は、この世界の悪意や悲しみをまだ一つも知らないように素直でまっすぐ。

そんな子たちと関わっていると、心が少し、前向きになる。

『失礼しましたー!サオリ先生、また授業でね!』

笑顔で手を振るナオちゃんを見送った。

サオリの職場である小学校から徒歩15分。

スーパー、コンビニも徒歩圏。

好立地なワンルーム。

そこがサオリの一人暮らしの自宅だ。

今日も授業の準備やら保護者の対応やらで、帰るのが遅くなった。

満員電車が嫌で、職場の徒歩圏に部屋を借りたのだが、

15分歩くのさえ、今のサオリには気が遠くなるほどつらいものだった。

「これで満員電車に乗るんだったらもっと大変だな」

よくそう考える。

「ただいまー」

まあ、誰もいないんだけどね。

一人、誰もいない部屋に帰るのも慣れたもの。

外で鳴くひぐらしの声が、寂しく部屋の暗闇に響いている。

こんな時、「おかえり」って誰かに迎え入れられたい。

暑い夏に、クーラーがかかっていない蒸し暑い部屋に帰るのが嫌いだ。

クーラーをつけて、涼しくなるのを待つ時間がとても虚しく感じる。

サオリの他に同居人がいれば、涼しいクーラーの効いた部屋に帰れるから。

そういえば、昼休みに見たネットニュース、悲しいニュースが多かったな。

前向きなニュースはないのだろうか。

涼しくなるのを待つ間、ふと思い出した。

一人暮らしであることを嫌でも思い知る虚しい時間を無理やりでも前向きなニュースで埋めたかったのだ。

『前向き ニュース』

そうネットで検索した。

ヤホーの知恵袋が上位に出てきた。

「前向きなニュースってないですか」

「最近、悲しいニュースばかりで前向きなニュースを探しています」

みんな、考えていることは同じらしい。

と、スクロールする指を止める。

『ポジティブニュース|悲しいニュースばかりで落ち込む人へ前向きなニュースだけが見れるサイト』

サオリはその文字を見て強く興味をひかれた。

それが、サオリとポジティブニュースとの出会いだった。

『ポジティブニュース』というサイトは、その名前の通り前向きなニュースばかりだった。

サイトを開くと、画面の下にタブが3つある。

「ホーム」「世間のニュース」「個人的ニュース」

ホーム画面では、お気に入りに登録した記事が見れる。

世間のニュースでは、世間で話題になっているニュース。

個人的ニュースは、個人的な嬉しい出来事などのニュースが見れる。

そう説明が書かれている。

サオリはまず、「世間のニュース」を見てみた。

『働かなくていい未来が来る!AIロボットに期待!』

なんと素敵な言葉『働かなくていい未来』

サオリはすぐにクリックしていた。

『AIの進化が凄まじいスピードだ。今年、2030年2月にAI搭載の人型ロボットが発売された。

当初は高額だったが、量産され来月9月には1万円ほどで手に入るようになるとのこと。

企業がAIロボットを積極的に使うそうなので、人間の代わりに働いてくれる未来がすぐそこに!

政府は、「労働はロボットがやってくれるから人間は遊んで暮らしましょう!

ロボットの労働力のおかげで食料もたくさんあるから配りますよ!仕事から解放宣言!」と発表しています』

なんて素敵な未来なんだろう。

今の仕事にやりがいは感じている。だが1日中家でアニメ見たい!漫画三昧!

そういう未来もとっても素敵。

スクロールして次のニュースを見る。

『人間が住める惑星を発見!2040年頃には移住や観光も可能に』

ついに惑星が見つかったんだ!地球温暖化やエネルギー問題が深刻化していて、

世界で協力して人間が住める惑星を探しているところだった。

「NYASAによると、惑星を探しているところ酸素と水が確認された。

そこには先住民がいて、我々地球人からすれば宇宙人なのだが、とても愛くるしい見た目をしているとのこと。

猫のような見た目でパンダのような大きさ、性格はナマケモノのようにおっとりしているらしい。

意思の疎通が少しできたようだ。

言語学者によると『みゃる!ほかのほしからのおきゃく、だいかんげい!』と言っているとのこと。

これから移住や観光の準備をしていく模様」

猫のような見た目でパンダの大きさ!しかも鳴き声が「みゃる」!!

なんてかわいい生き物なんだ・・・

サオリはその生き物を想像して一人ニヤニヤしていた。

こんないいニュースがあるなら、将来が楽しみだ!

今まで誰かの悲しいニュースばかり見ていたので、サオリにとってポジティブニュースサイトは新鮮で日々の癒しになった。

仕事に行く前にスマホでサイトをチェック。

朝からポジティブなニュースで気持ちを前向きにする。

その習慣ができてから、心が楽になった気がする。

ポジティブニュースサイトを利用してから2週間が経った。

放課後、子供たちを見送っている時のこと。

「サオリせーんせい!なんか、最近いいことあった?」ナオちゃんが嬉しそうに話しかけてきた。

「マキも思ってた!先生、最近とってもニコニコしてる!」ナオちゃんといつも一緒に帰っている、マキちゃんだ。

「そう?先生、いつもはニコニコしていなかった?」そう聞くと、

「んーん!ニコニコはしてたけど、最近は本当に嬉しそう!」

ドキリとした。今までの無理に作っていた笑顔は子供たちにはわかるんだ・・・

「先生、ちょっと将来が楽しみになってね!」

「ふーん・・・」ナオちゃんとマキちゃんは不思議そうにしていた。

これまで、「世間のニュース」だけを見ていたけど、「個人的なニュース」も気になってきた。

人生が上手くいっていないと、他人の成功や幸運を素直に喜べない。

だから今までは見ていなかったのだ。

でも今なら、毎日ポジティブなニュースをみて、将来が楽しみになった今なら、

他人の幸運を「よかったね」と喜べるかもしれない。

今日は休日。朝から世間のポジティブニュースを見て休日も前向きパワーを充電していた。

よし、「個人的なニュース」、見てみよう!

スマホでタップする。

そこはSNSのような画面だった。個人のアカウントが文を呟いている。

が、SNSと違う点がある。みんな前向きなことを呟いている!!

「推しから返信が来た!」

「うちの猫の誕生日!いつも癒しをありがとう」

色々なことを呟いているけど、嫌な気持ちになる内容が一つもない。

見ていてほのぼのする。

「よかったね!」ボタンがあり、気軽にタップできるようになっていた。

と、スクロールしていくと、運営からのメッセージが出てきた。

『あなたも、ポジティブニュース、投稿してみませんか?

どんな小さなことでも、嬉しかったこと、共有してください』

私も投稿できるんだ・・・

でも、最近嬉しかったことって・・・

考えても考えても思いつかなかった。

私、つまらない人生を生きているのかな・・・そう感じてしまっていた。

「サオリ先生!どうしたの?最近嬉しそうだったけど、今日は元気ないね?」

学校の朝の会が終わり、職員室でお茶を飲んでるところだった。

同僚のミワ先生。いつもニコニコしていて子供たちに大人気な先生だ。

ミワ先生なら、ポジティブニュース、尽きないんだろうなあ・・・

「ちょっと考え事してて・・・ミワ先生は、最近嬉しかったこと、あった?」

「なあに、急に。うんとね、朝校庭でお水あげていたらチューリップが嬉しそうだった!」

なんだそれ!正直そう思ってしまった。

そんな小さなことでいいのか。

「もっと、なんかないの?」

「えー、今日、朝ごはんの目玉焼き、ちょー上手にできたよ!」

すごいドヤ顔で言っている。

「そういう小さなことじゃなくて・・・」

「え?私にとっては大きな嬉しいことだよ!小さな幸せに気づけて、大きな喜びをもらう

そうしたら楽しくない?」

笑顔で言ってくるミワ先生、きっと作り物じゃない、本物の笑顔。

小さな幸せに気づく・・・簡単そうで難しいこと。

放課後、スマホでまたポジティブニュースを見てみた。

昨日見た時は気づかなかったけど、大体みんな小さい幸せを書いている。

「今日は天気が良くて洗濯物がよく乾いて嬉しい」

「朝から猫3匹も見た!かわいい〜」

「いつも行くカフェの気になるお兄さん、挨拶できた!」

小さな幸せでいいんだ!私も意識して探してみようかな。

よし!明日は小さな幸せに気づく日にしよう!

朝:いつもより早く起きれてゆっくり朝ごはんを食べられた。星座占いも1位!

学校にいくとクラスの子の欠席がいなくてみんな元気!

昼:茶柱が立った!天気が良くて子供たちと昼休みにドッチボールをした。

先生がいると最強!と言われて嬉しかった。学生時代部活やっててよかったな。

夜:めずらしく早く帰れて、コンビニ弁当じゃなく手作りのご飯が沁みる。

こんな感じかな・・・

普段は通り過ぎるような小さな幸せも、こうして意識してみると、たくさんあった。

どれを投稿しようか・・・

えーい、もうこの文みんな書いて投稿しちゃえ!

すると、すぐに「よかったね!」通知が来た。

見てくれている人がいる。共感してくれて、それがとても嬉しかった。

次の日。

通知音で目が覚めた。

スマホをみると、「よかったね!」がいっぱい来ている。

コメントも来ていた。

『占い1位だと嬉しいですよね!』

「手作りご飯、特別美味しいですよねー!わかります!」

今日も小さな幸せに気づける1日になりますように!

あとがき

ここまで読んでくださってありがとうございます。

日常の中のささやかな幸せが、誰かの心に届きますように!

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